少しはオーストラリアらしい話。
せっかくオーストラリア人の家に泊まったんだから、オーストラリア人として気にしていることを聞いてみたいと思う。
しかし、英会話が得意でないと、質問するフレーズが全く出て来ない。
これじゃわざわざ他人の家に泊まった意味が薄れてしまう。
何を話そうかと思っているうちに、まだ出会って30分しか経っていないのに、次のアポがあるのかもう外出するという。
えー。全然しゃべってない。飲み会で席を変わらないうちにタイムアップでお開きになるみたいだ。
じゃあ、せっかくなので、自分も途中まで外出に付き合おう。
日本円の両替も必要だし、食料品の買い出しにも行きたい。
一緒に連れだって外出する姿を振り返って今思い出すとなんだか変なカップルに見えたか見えないか。言い訳はともかく、両替はどこ?教えて下さい。
から英会話は再開した。
唐突に彼女から話が振られた。
「日本食が大好きなのよね。とってもおいしいし」
来た来たー!オーストラリア人は最近日本食ブーム。美食国家を目指しているだけあって、おいしいものには目が無いようだ。
「好きなものはおすし、刺身。焼き鳥とかも好き」
わかりやすくしゃべってくれたのだろうか。それとも本音でしゃべってくれているのか。判断できるほど会話が浸透していない。
日本食が好きなのはいいけど、同じお米の料理で、目の前に広がる中華街があるので、中華料理は好きなのかな? そういえば、2011年にメルボルンに訪れた時よりも中華のお店が増えたような気がした。中にはアジア人しか見当たらないようなストリートもあるくらいだ。
「実は中華料理はあまり好きではないの」
「どうして?値段の割に量もあっていいじゃない!」
自分にとって、オーストラリア人は男性も女性もたくさん食べるもの、とステレオタイプに理解していた。そんなことは無い。小食と思われる日本人だって、大食い選手権があれば日本人は世界で優勝するんだから(あ、全く文脈がかみ合ってませんね)。
「中華料理はついつい食べ過ぎてしまうのよ。それに油が合わないのか、胃がくたびれる。その点日本食はとってもヘルシー。量も少なめで健康に非常にいいのよ」
そうなんだ。外国人、特に欧米系は満腹になるまで食べると思いきや、実は日本人のような「腹8分、腹7分」を実行している人はいるんだ。
そうだよね。健康に気を使っている人は世界のどこに行ってもいるし、逆に全く気を使ってない人も日本にうじゃうじゃいる。
「じゃあ、日本食が好きな理由はヘルシーで身体にいいから?気を使っているですね?カバンの中でビンの音が聞こえるけど」
一緒に歩いている間、鞄の中からビンが財布かスマホか何かに当たる音が気になっていたところだったので、思い切って質問してみた。
「これはビン。中身は水よ」
これで、キッチンに置いてあった怪しげなコーヒーメーカーのなぞが少し解けた。
写真は、日本からのお土産、カンガルーとコアラの折り紙。
右奥にコーヒーメーカーのようなものがあるが、ビンの中には透明の液体。
コーヒーを淹れている形跡は無かったので不思議に思っていた。
この水も、身体によいレモンマートルのお茶(ティー)だった。
ほんのり香りのする、非常に味が薄い。健康に良いものは基本、風味が薄い。
その一方で、自分は味のとても濃いものを1つ探していた。
それはオーストラリア料理の代表格にもなりそうな、ミートパイだ。
お金を節約するのであれば、3日間くらいなら全食ミートパイでもいいくらいだ。
2日目の朝に、どこかお奨めのミートパイショップが無いか、メモ書きを残していたくらいだ。
けど、彼女にとってはミートパイはNGだった。
「あんな脂っこいものを食べちゃダメよ。それにおいしいミートパイはシティーには無いわよ。だから案内できない」
残念ながら一理ある。いわれてみて確かに筋が通っている。
ミートパイは彼女にとってはファーストフードチェーンと同じ位置づけなのだ。
じゃあ、我が家の子育ての方針と一致しそうだ。
「うちの子にはまだ生まれてからファーストフードのハンバーガーは食べさせたことがないんですよ」
「それは大変すばらしいこと。とっても大事なことよ」
実際、ファーストフードはオーストラリアの国民食とまではいわないまでも、かなり生活習慣に入り込んでいる。国民の3人に2人は肥満という統計データもある。
不健康な生活に巻き込まれないようにしようという姿勢は国を超えて、会話を超えて、共有できるものがあるんだと、少ないボキャブラリーでもわかりあえたのがとってもう嬉しかった。
彼女の約束が迫る、17時。ここで一旦お別れだ。