音楽、食べ物について話が出来た。それも決して流暢ではない、貧弱なボキャブラリーでも。
もう少し突っ込んだ話は3日目の夜にやって来た。
まる1日の観光で荷物が重かったので早めに部屋に戻ったところ、彼女も早めに帰ってきた。といっても夜9時前だった。
IPhoneのイヤホンについているスピーカーに向かって誰かと話をしながら、いきなり「ハロー」と呼び掛けられ、いったい誰に話しているだろうか。同時並行で会話できるの?さすが先生だ(そんなわけないか)。
話は日本に行きたい、というところからスタートした。
なぜか京都には来たことがあるが、東京、大阪には行ったことが無いという。
では、東京に来たら、案内しますよ。とちょっとだけリップサービス。
「日本はとってもいい習慣を持っている。それを体験できだけも幸せ」
だというのだが、どの習慣に感動しているのか。
「日本はとても清潔。オーストラリアはきれいじゃないしね」
そんなことは無い。オーストラリアもとっても綺麗だと思うけど。
「キチンと手を洗うじゃないの」
確かに、手洗い、うがい、そして学校の教室の掃除。知らず知らずのうちに清潔を保つ習慣を身体に叩き込まれていたのかもしれない。
サッカーワールドカップで試合に勝っても負けても、競技場のごみ掃除をするだけで世界の注目になるがふしぎだが、これも学校の教育のおかげだ。多分。
「それに、落としたものを盗らないできちんと返す。オーストラリアは落ちていたものなんか絶対に返さない。どうして日本人はそんなに正直なの?」
日本語で質問を受けたとしても回答に窮するのに。
他人の物は盗らない。交番に届ける。それが学校で受けた時の教育だ。
「日本人のクリーンさ、正直さはいったいどこから来るの?」
そんな古い歴史については、かなり歴史を勉強した人でないとわからないだろう。
高度経済成長時代に入るまで、日本の生活はとてもきれいではなかった。つい最近の話です。と伝えたかったが、ダメだボキャブラリーが出て来ない。なんとなくお互いの話は理解できているが、深堀がこれ以上進まない。
つまり、会話のレベルがわかってしまった。
これ以上突っ込んだ話はもう無理だ。完全に白旗です。降参!
それでも、気楽にくつろぐように過ごせるのも、彼女のホスピタリティーそしてあまり気にしないオーストラリアの国民性なのか。とっても疲れるようなことにはならない。
他人の家で、且つなかなか流暢に会話できない時間が過ぎても、ゆったりと感じられるなんて、オーストラリアやカナダくらいじゃないかな。
そんな想いを感じながら、「ああ、明日の夜にはもう帰国。あと1日しかない」
あまりに短い滞在期間となかなか取れない日本の労働時間について恨んでいると、それを察したのか
「日本人はみんな働き過ぎね。もっと人生楽しまなきゃ!」
「楽しむためにオーストラリアに来たんだけど」
「あなたは楽しめているほう。みんなが楽しく生活できるようになるといいんだけどね」
というようなことを言ったみたいだった。
だからこそ、日本人はもっと海外に出て、そとの世界を知って欲しい。
旅は止められないだけではなく、みんなの生活のために旅を進めないと。
そういえば、ミニコンポ代わりに家主が不在でも部屋中ずっと音楽が鳴り響いていた。
うーん、電気代がもったいない。
旅のタイムリミットは24を切っていた。